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ジャーナル

株式会社MJS Finance & Technology | エムエフティー(MFT)

経理担当が効率が悪いと
感じる業務1位は?



新型コロナウイルス感染防止の影響の長期化により、テレワークやリモートワークを導入して出社せずに業務ができるような企業が増えています。
一方、せっかく自宅で仕事ができるのに、「印鑑を押すためだけに出社しなくてはいけない」という声がニュースで話題になりました。
現在は、内閣府、法務省、経済産業省は、連名で契約書には押印が必須ではないと公表しており、行政手続きも印鑑が不要になるように改革が進められていいます。
今回は経理担当者が実際の業務で何にストレスを感じているか、印鑑の必要性と法的拘束力、海外での状況についてご紹介します。

効率の悪い業務、第一位は押印業務

2020年10月に全国のビジネスパーソン900名を対象に調査したエン・ジャパンの調査結果では約半数の49.0%が押印業務を効率が悪いと回答しました。
次いで「請求書の印刷・封入・投函などの作業」が45.3%、「請求書の管理・保管」が45.0%と、デジタルに移行できていない経理作業が多いことが分かります。

またこれら経理作業を行うために、58.4%の人がリモートワーク期間中でも、出社した経験があると答えていました。さらに約70%の人が「支払い・請求業務の作業負担によりストレスを感じることはありますか?」という質問に「ストレスを感じている(毎月+作業が多い月のみ)」と回答しています。

(引用:エン・ジャパン「発注請求業務に関する意識調査」)

海外ではサインでOKなのに、なぜ日本では押印が必要?

この、効率が悪いと半数が感じている押印業務はなぜ、必要なのでしょうか?日本のビジネスシーンで押印が必要な理由は、大きく分けて2つあります。

1つ目は官公庁への申請や登録の際に実印が必要な点です。役所や公的機関へ提出する書類や契約に関わる書類で押印が当たり前なのだから、法人として重要な書類に押印する際には代表者印を用いるのが一般的と言われています。

2つ目は今までの慣習でそのまま使っている企業が多く、実際に仕事をしている人は印鑑の使用率が高いことです。

日本トレンドリサーチが2020年9月に1,500人の男女に調査したアンケートでは、仕事をしている人は44.0%の人が印鑑を使う機会が多いと回答しているのに対し、仕事をしていない人は11.8%の人しか使う機会が多いと答えていません。

(引用:日本トレンドリサーチ「判子に関するアンケート調査」 https://trend-research.jp/4836/

このように、ビジネスパーソンにだけ、使用頻度の多い印鑑ですが、実は、冒頭でもお伝えしたように2020年6月に内閣府・法務省・経済産業省が連名で公表した押印のQ&Aには、印鑑の使用は必須要件ではないと公表されています。
つまり、印鑑は法的に必要なものではなく「これまで一般的だったから」というあいまいな理由だけで、使われていたということです。

契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか?

内閣府・法務省・経済産業省が連名で公表した押印のQ&Aをみてみましょう。

ここでは、

・ 私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、 書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除 き、必要な要件とはされていない。
 ・ 特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、 契約の効力に影響は生じない。

とあります。
(引用:押印についてのQ&A http://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf 

また企業間の契約では、新商法第32条の記載では、本来押印よりも署名(サイン)の方が法的効力も強いと明示されています。
つまり、ここでも本来はサインで充分であり、押印しなければいけないというわけではないことが記載されているのです。
さらに、民事裁判の過去の判例では、押印のない電子メールでも契約が成立するとした事例があります。そのため気楽な思いで返信したメールでも、法的拘束力を持つ場合もあるのです。

印鑑の不正使用に関する問題

ビジネスシーンで一般的に利用されている印鑑ですが、不正に使用された場合のリスクもあります。
過去の判例では印鑑が不正使用されたときは、使用された側が証拠を立証しないと契約を無効にできません。

私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とする

(引用:最高裁判所昭和39年5月12日判決)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53145

自分以外の者が勝手に押印したり、第三者が印影を盗用したり、押印されたあとで契約書がねつ造されたりしたなどの証拠を提出できないと、印鑑を持っている側の主張が通らないので、印鑑所有者の方が不正使用された場合は不利になってしまいます。

またビジネスの現場ではありませんが、2019年5月には、京都府八幡市社会福祉協議会職員のケアマネジャーが介護サービス利用者116人の印鑑を無断で作っていた事件も起きています。

市と京都府は7日、社協に立ち入り調査をした。ケアマネの机から見つかった利用者の印鑑は139人分(145本)で、なかには61人分(64本)を持っていたケアマネもいた。116人分(121本)は本人や家族に無断でつくられており、うち95人分(99本)は実際に不正使用されたことを確認したという。

介護保険法に基づく省令では、ケアマネが少なくとも月1回、利用者と面接することを規定。ケアプランをつくる際、利用者に計画書を示して同意を得ることも定めている。同意した証しとして書類に押印してもらうか、署名してもらうことになる。

(引用:朝日新聞デジタル)https://www.asahi.com/articles/ASM5J3RP7M5JPLZB00H.html

自分の家族が充分な介護サービスを受けられず、事業者側に都合のよいプランにされていても気づけない可能性もあります。印鑑の不正使用をなくすのは難しいのが現状です。

なぜ、海外は印鑑ではなくサインでいいの?

2021年現在、契約を結ぶときに印鑑を使う国は日本だけと言われています。ハンコ文化の発祥である中国でも、現在は印鑑制度がありません。

海外ではサインで本人証明を行うのが一般的ですが、偽造防止のために「公証人制度」でサインの信頼性を高めている国が多いです。たとえばアメリカでは、州ごとにライセンスをもった公証人がいて、サインの有効性を担保しています。

米国では、ノータリー・パブリック(Notary Public)と呼ばれる州からライセンスを受けた公証人がいます。日本の公証人とは違い、公正証書の作成を行うことはできず、文書の認証(Notarization)のみを行うことができます。公証人は、個人や企業が不動産の契約書や遺言書などの重要な書類にサインをする際に、契約者本人であり、脅迫等によらないことを公平な立場で確認し、不正抑止に務めます。

(引用:日本貿易振興機構(ジェトロ)https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-000949.html

現在では電子署名が普及しつつあり、世界シェアトップの「ドキュサイン」は、180か国・43言語で署名を利用できて、2億を超えるユーザーが電子署名を使うようになりました。

デジタルで送っている請求書にもはや印鑑は意味なし?

日本でもデジタルで請求書を送る機会が増えています。請求書作成・送付機能が実装されている会計ソフトも多く、これから仕事中に印鑑を使う機会は減少していく可能性が高いです。
新型コロナウイルスの影響が長期化すれば、経理業務をデジタル化してリモートワーク中の社員が出社しなくてもよい環境に整えるのは必須といえるでしょう。

デジタル化支援サービスを提供している企業も多いため、この機会にぜひ経理業務の効率化・デジタル化を検討することをおすすめします。